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70歳までの就業機会確保と企業の人件費管理

2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。将来は義務化も検討されており、「70歳現役社会」はもうすぐ目の前に迫っています。

 

2013年施行の法改正により、65歳までの雇用確保措置は既に義務付けられています。少子高齢化が進み労働人口が減少している現在、高齢者によって労働力を確保しようという動きが進んでいるのです。今回の改正は、この65歳をさらに70歳まで引き上げた「努力義務」ということになります。

 

また年金の支給開始年齢は従来「60歳」でしたが、徐々に引き上がり、2025年(女性は2030年)には「65歳」に統一されることになっています。

 

30年ほど前は「55歳」が主流だった定年についても、現在は「60歳」が大多数に。それも今後は「65歳」へ、もしかすると将来は「70歳」まで引き上げられるかもしれません。

 

ここでは「70歳現役社会」の到来を目前に、今から考えておくべき「総額人件費への影響」についてお伝えします。

2021年4月に高年齢者雇用安定法が改正

2021年41日に高年齢者雇用安定法が改正されたことにより、企業は次のいずれかの措置(高年齢者就業確保措置)を講じるよう努める必要があります。

  •  1.70歳までの定年引き上げ

  •  2.定年制の廃止

  •  3.70歳までの継続雇用制度の導入

  •  4.70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入

  •  5.70歳まで社会貢献事業に従事できる制度の導入

  •  

緊急的な対応が求められるわけではありませんが、今後、多くの企業で70歳までの雇用・活躍推進が本格化することが見込まれます。

年金支給開始年齢の引き上げ・給付金の減額も

年金の支給開始年齢が、男性は2025年から、女性は2030年から「65歳」に引き上げられることになります。20224月に施行される年金制度の改正では、65歳から受給する老齢厚生年金を繰上げまたは繰下げする場合の基準も変更され、60歳から繰上げした場合の減額率は0.5%から0.4%へ、これまで70歳が限度であった繰下げの増額率(0.7%)の適用が75歳まで延長され、75歳まで繰り下げた場合、最大で年金額を84%増額させることが可能になります。

 

60歳以降の賃金が60歳時点に比べて75%未満に低下した状態で働き続ける場合に、65歳到達月まで支給されていた高年齢雇用継続給付も、2025年にはその支給上限が15%から10%に引き下げられます。これまで60歳という区切りで享受できていた公的給付が縮小傾向にあり、最終的には撤廃となる可能性も見据えなければなりません。

 

また2025年は大きなターニングポイントとして考えられています。2000年の時点では平均3000円に満たなかった介護保険料も2025年には平均8200円程度まで上昇する見込みです。高齢化社会の影響は企業にとっても避けられない大きな課題になっています。

雇用年齢の上昇による人件費管理への影響

このような法改正の流れから、70歳までの就業機会確保の義務化(努力義務ではなく)や、65歳定年の法制化についての議論が始まるのもそう遠い将来の話ではないと考えられます。それを見据えると、多くの企業でシニア社員の活躍促進と人件費コントロールが大きな課題となってくるのです。

 

企業内の要員構成によりますが、一般的に多いとされる50歳前後がボリュームゾーンの企業であれば、そのまま10年後を迎えると大量のシニア層が形成されるという状態が予想されます。その層が60歳以降の10年間どのように活躍できるか、そしてその賃金体系をどう設計するかが重要なポイントです。

 

30歳~40歳の年齢層が少ない企業で人材育成が間に合わない場合、経験豊富なシニア層に60歳以降も引き続き幹部として働いていただく必要があるかもしれません。あるいは60歳以降70歳までの10年間、雇用が継続されることによる人員増加分をコントロールするために、新規採用の抑制や、早期退職を実施するケースも考えられます。

 

60歳以降、「どうせあと10年」という働き方になりパフォーマンスが低下することも否めません。世代交代を行うことにより、「かつての部下が上司に」という状況も増えてきます。人材の配置や活用がこれまで以上に難しくなってくることでしょう。

 

このような時代を目前に、注意したいのが人事制度です。特に、「役割等級制度」や「職務等級制度」ではなく「職能資格制度」を基軸とした制度を運用している場合、60歳以降も賃金が変わらない、または上がり続ける可能性まであるのです。その結果、企業全体の総額人件費が膨張し、若手の登用や新規採用をする余力がなくなる恐れもあります。

再雇用後の職務内容は同一労働・同一賃金に注意

2021年4月から、同一労働・同一賃金の適用範囲に中小企業も含まれることになりました。ここで注意したいのが、60歳定年後に再雇用されたシニア社員が、定年前と同じ職務を担っているケースです。若手社員の人材不足により、「65歳まで部長職を継続」というような状況もあるかもしれませんが、職務は何も変わらないまま、単に再雇用だからという理由で「給与は減額、手当は不支給」ということは原則できません。また、再雇用後に同じ職務を継続しない場合でも、60歳前の正社員との間で不合理な待遇差が設けられていないかどうかの確認と対応が必要になります。

 

過去の裁判例で、同一職務であっても60歳以降の処遇差が一部認められたケースもありますが、これは定年60歳という時代背景や、再雇用後に年金受給も予定されていることが考慮された判決だったと言えます。つまり、将来的に定年年齢、年金支給開始年齢、給付金支給条件等の法改正があれば、裁判における判断基準も時代とともに変化する場合があります。今後は裁判の動向や他の事例も踏まえながら賃金体系・福利厚生等の見直しに対応していく必要があります。

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2021年4月は高年齢者雇用安定法の改正と中小企業への同一労働・同一賃金の適用が重なり、今後は年金や雇用保険等の高齢者に関わる法改正が順次予定されています。そして少子高齢化により労働人口が減少する中、シニア社員を取り巻く環境は今後より一層複雑化していくと考えられます。既に課題や危機感をお持ちの経営者の方も多いのではないでしょうか。

 

70歳現役社会」は、50歳の社員が「残り20年」という期間を働き続ける時代です。定年まで役職に就くのではなく、どこかのタイミングで役職を降りるキャリアプランが定着することでしょう。そんな将来を見据え、これまで役職名(部長、課長等)で呼び合っていた文化を改め「○○さん」と呼び合うことで、定年後もお互い躊躇なく呼び合えるようなフラットな組織づくりを目指している企業もあります。

 

ここでは特に人件費管理を中心にお伝えしましたが、70歳までのモチベーション維持・継続も重要な課題です。70歳まで「やりがい」をもって「元気に」「安心して」働くことができれば何よりです。

 

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